ピエール・アレシンスキー展
bunkamuraザ・ミュージアムで開催中のベルギー出身の現代アーティスト、ピエール・アレシンスキー展に一歩足を入れた途端、小躍りするぐらい胸が高鳴った。
コピーちっくに言えば『初めて会った瞬間、恋に落ちた』という感じ?正確には、恋に落ちる時に感じる、この人と私はどこか似ているかも?とか、ずっと前から知っていたような?とか、勝手に赤い糸がつながっている様な錯覚を覚えてしまったのだ。
1927年ベルギーで生まれたアレンスキーは90歳近い今でも現役で新作を描いているスーパーアーティスト。なのに彼の絵を見たのは今回が初めてだ。おそらく日本ではあまり知られていないアーティストだろう。だけど、彼の方は随分と日本のことに興味を持ち影響を受けている。
当時、ダダだのシュールレアリズムだのが流行中だったヨーロッパでアレシンスキーは一人の書道家に出会った。その森田子龍が書を書く姿に衝撃を受けたアレシンスキーは日本を訪れ、前衛書道家たちの影響をさらに受ける。彼が見た書道は『書く』ではなく『描く』だったと上映中のビデオが語っているのを聞いて、自分がもし日本語を知らなかったら、その感覚はなんとなく分かる気がした。
その書道の『描く』という感覚によって彼のスタイルが変わった。
キャンバスではなく紙に。立てかけるのではなく床に置く。絵の具ではなくインク(墨汁の変わり)そのスタイルが彼の作品のキャラクターそのものを生み出した。
そして、恋に落ちた錯覚を起こさせた要因は、そんな彼の日本びいきな一面にあったのだと思う。
ちなみに、今は腰に堪えるので床置きでななく壁に立てかけて描いているそうだ。
なんとなく書に見える。一つの作品。
それにしても上映中のビデオに登場する前衛の書道家たちのカッコイイこと!
タバコをくわえたまま、何本も束ねた筆に墨汁を吸わせて、紙にグリグリと墨敵を乗せていく森田子龍、柳のような細くて長い筆でしなりしなりと細い線を描く篠田桃紅。
この展示は海外でなぜ書道が好まれるのかが良く分かる展示でもある。
写真:篠田桃紅
写真:森田子龍