shigemmy’s note

絵を描く者のおぼえがき

奥村土牛 〜画業ひとすじ100年のあゆみ〜

奥村土牛は明治に生まれ平成2年に101歳で亡くなるまで、現役で活躍された日本画家だ。私にとってちょっと特別なエピソードのある人物である。

 

実は若かりし頃に、奥村土牛の息子さんでフォトジャーナリストの奥村勝之氏に写真を習っていた。世田谷の奥村さんの自宅スタジオに通っていたある日、土牛の遺品ガレージセールが行われた。亡くなって間もない時期だったので、物置を整理中とかで、見るからにガラクタや、なんとなくお値打ち品かもと疑わしい壺や茶碗、初版本の画集や、オリジナルかプリントか分からない絵もあったり、色んなものが蚤の市のように雑然と並んでいた。

 

当時20歳そこそこの私には、物の価値も分からなければ、ぶっちゃけ土牛(日本画)にも興味jはなかった。けれど、これも何かの記念と思い蜜柑が描かれた扇子をいただくことにした。土牛のサインは有るものの、それが本物か印刷かは奥村さんも分からないけれど扇子としてみれば、それなりのお値段はしそうってことで1万円の値札が付いていた。20歳の自分にとっては、ちょっとした買い物の額だった。けれど、宝くじを買った気分でワクワクした。本物だったら嬉しいな♪っと。

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そんな縁もあったのに、実はちゃんと展示を見たのは今回が初めてで、しかも中年から老年の一番脂の乗った良い時代の作品が一同に見れて、土牛の世界を知り堪能することができた。ズラッと並んだ作品の中で、私が一番すごい!と思ったのはこの『雨趣』。東京生まれで東京育ちの土牛は世田谷だの麻布だの赤坂だの描いた作品も多く、これも東京のどこかからの風景。雨煙で霞んで見える景色と手前の木々のはっきりした緑の対比が実に素晴らしくて何度もこの絵に戻って見てしまった。霞んでいる部分はよく見ると、細くて白い線で描かれた雨が無数に描かれている。梅雨どきの東京の匂いとか肌寒さとか、そういうのが伝わってきた。

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この鳴門の渦潮も実に印象深く、船酔いしながら奥さんに支えてもらいながらスケッチしたエピソードもまた印象に残った。。。。。

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写真:98歳頃の土牛

 

さてさて、このブログを書くにあたって奥村勝之さんを検索したら『相続税が払えない。父、奥村土牛の素描を燃やしたわけ』という本が出てきた!!そういえば、あのガレージセールの時に相続税が高くて大変だという話しをしてたのを思い出した・・・・そうか素描一枚を相続するのに税金がかかるのか・・・その点、アメリカは逆でアートを買うと税金が優遇され税金対策になっている。そういうところが日本ではアートがビジネスとして育たないのだと村上隆先生も言ってた。まあ、そんなわけで私が払った扇子代も少しは税金の足しになったのだろうか?実は、あの後すぐに鑑定してもらったら印刷された大量生産物で値段をつけるなら2千円!(涙)と言われてがっかりだったけれど、今日その気持ちが晴れた。絵が素晴らしかったから・・・扇子大事にしたいと思う。

 

山種美術館

3月19日から5月22日まで