ゴッホ展〜巡りゆく日本の夢〜
あのゴッホが、ジャポネスクに憧れ、浮世絵に影響を受けていたなんて、
あの筆のタッチから想像がつくだろうか? 実際に、浮世絵を真似て描いた
そんなゴッホに憧れた日本人の画家や知識人の多くが、ゴッホの没後、
弟テオと共に眠る墓のあるオーヴェールを尋ねる巡礼が行われたという。
訪れた事のない日本に憧れたゴッホ。そのゴッホに憧れた日本の画家達が
ゴッホの墓を訪れた旅の記録を同時に展示する、とてもロマンティックな
展示が東京都美術館で行われていた。(1月8日で東京は終了し、20日からは
京都になる模様)
実を言うと、かく言う私も巡礼者の一人だ。
24年前初めてパリ旅行に行った際に、フランス語もわからず、googleもなく、
半べそかきながら友人と二人、半日かけてようやくパリ中央駅からオーヴェール
行きの列車に乗り2時間。やっと到着したオーヴェールは、無人駅だった様な気がするけど、降りたのは、私と友人と、そしてパリに留学中だと言う台湾人の女の子の3人だけだった。真冬だったので旅行客も無く、小さな町を歩いているのは私達3人だけ。
どこに行ってもその女の子と会ってしまうので、いつの間にか3人一緒に歩く様になり、オーヴェールの教会に向かった。
オーヴェールの教会は、あの絵の通りだった。
(ネットで拾った画像で2006年頃の写真で当時の物ではありません)
私は念願の場所で、念願の教会をスケッチをした。(あの時のスケッチブックは何処ぞに行ってしまったのか?)今回の展示で佐伯祐三が描いた教会のスケッチがあったのだが、日付を見たら私が同じ場所で描いた時とちょうど同じ、1月の中旬だった。
その30年後に自分も同じ場所に立ち、同じ構図で描いていたと思うと、ちょっと嬉しかった。
私がスケッチをしている間に、台湾人の子が馬に乗った素敵な男性に話しかけていた。その男性は、教会の守り番をしていて教会のすぐ裏の古い家に住んでいた。
彼女がフランス語が話せるおかげで、その男性と仲良くなり、3人のアジアっ娘を家に招いてもらってお茶をご馳走になったり、買い出しに行く車に便乗させてもらって(トラックの様な作業車だった気がする)街を案内してもらったり、おじさんが自分で建てている小屋を案内してくれたり、なかなか重厚な旅の時間を過ごした。
その時の写真は、これしか残っていないのだが、長い髪を後ろに束ねて、真っ白い馬を連れたダンディな男性が土手から降りてきた時の事、男性の家と教会の間には、アヒルが数匹いた事、ゴッホが描いた教会も麦畑も、絵のまんまであった事、
誰もいないゴッホとテオのお墓を見た時に『こんな地味なの?』っと友人が呟いた事、誰もいない街の石畳に夕日が落ちていった事など、佐伯祐三や、森鴎外や岸田劉生らの巡礼の旅の記録を見ながら思い出した。
ゴッホは天才ではないと言うけれど、ゴッホを巡って、こんなエピソードが生まれる事に、今改めてゴッホの魂のオーラを感じずにはいられない。
またオーヴェールに行ってみたいな。あの場所は今も変わらない風景であって欲しい。
そして、あの男性はまだあそこに住んでいるのだろうか?